階段と膝

N様(50代女性)は右膝の内側がだんだん痛くなってしまいました。歩くとき、階段を上るとき、立ちあがるときに痛みを感じるそうです。

膝の痛みの原因には、主に「関節」「筋肉」があり、N様のご症状や経緯を伺うと、筋肉性の痛みでまだ関節の変形や炎症による痛みではないことが分かりました。その大きな理由の一つが、階段を上る時に痛みがあり、下るときは痛みがない点です。基本的に上るときだけ痛い場合は、筋肉性が主原因であることが多いためです(下りの方が膝関節に負担がかかる傾向がある)。

実際、両方の大腿部を比べてみると、明らかに右の大腿部内側の筋肉の張りが強いので、その原因を知るためお話を伺うとハッキリとした原因が見えてきました。

N様は教員というお仕事柄、1階から5階まで階段を右回りで急いで上る習慣があり、かつパソコンなどの重い荷物も運ぶ必要がありました。そのため、常に右膝をねじりながら着地し踏ん張って上っていたため、膝の内側に大きな負担が連続してかかっていたのです。

「鵞足」というのは、膝の内側の少し下の部分を指しますが、半腱様筋、縫工筋、薄筋の3つの筋肉が太ももの付け根から鵞足に付着しています。人は他の動物と違い、つま先の向きと体の向きが違う方向を向いていても進める生物です。サッカーのフェイントなんてまさにそれを活かして相手を騙すテクニックです。逆に猪などは直進して、方向転換するときはまた仕切り直しますよね。

人間は器用な反面、今回のN様のように、ねじり膝のまま鵞足にストレスを加え続けていたため痛くなりました。このまま続けていたら鵞足炎という炎症が起きて、まともに歩けなくなるところでした。

全身をほぐしながら、鵞足に付いている3つの筋肉を丁寧にしっかり緩め、他の関連部位も緩め施術は終了です。施術直後、恐る恐る立って歩いてみましたが、ひとまず膝の痛みはないようです。N様も少し安心されたようでした。

しかし、また同じ上り方を繰り返してしまうと、同じ痛みを引き起こす確率がかなり高いと感じたので、上り方をジェスチャーしながらレクチャーさせていただきました。

・つま先をなるべく真っすぐにして上る(ねじらない)

・階段を上り切ったら、方向転換はゆっくりしてまた上る

・本当に急いでいるときは仕方がない

・下るときもできるだけ、つま先と体を同じ向きで着地する

1週間後、来院された際に伺うと「あれから膝は全然気にならず大丈夫でした」とご報告いただきました。痛みの多くの原因は生活習慣にあります。姿勢がその代表的なものですが、そういうものをお話伺いながら見つけるのも施術家の仕事です。